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小説版『適切な距離』 第六回

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6.

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4月1日

曇り。日勤明け。

昼食に野菜を炒める。

午後から礼司と鑑賞会をする。砂の器。

犯人の男が、いつもいつも、悲しくて泣いてしまう。

礼司も、ピアノを演奏するシーンで泣いていた。

昔の俳優の方が、演技が上手いねと言う。

その通りだ。加藤剛は本当にハンサムだった。

礼司は映画のテーマである差別に対して落ち込んでいるようだった。

実際、私達も貧乏や片親で差別をされてきた。

礼司が小学校の頃に、授業参観の日、みんなの居てる所で、

横に座ってた女が、先生に向かって、礼司君はお父さんが居ないから横に座るのは嫌です。と言った。

言ったその女も、その女の母親も、悪気の無い顔をしていた。

この話をすると、礼司はいつも、お母さん恥ずかしい思いさせてごめんね。と言う。

強い子だ。

***

4月3日

日勤。礼司は斎藤さんを連れてきていた。

夜は煮魚。礼司は好物だと言う。知らなかった。

斎藤さんも好物だと言う。

食べ終わった食器を、斎藤さんと洗う。

礼司から薦められて砂の器を見たらしい。

泣きましたと言っていた。

ドラマもあるよと教えると、喜んでいた。

食後は三人で、カステラを食べる。

今度映画を観に行こうと礼司が誘う。

話が盛り上がり、結局今日は映画を観ず。

***

4月5日

準夜。起きると礼司がちょうど大学から帰ってきていた。

昼食は外で食べてきたらしい。

大事な話があるらしい。

父親からの手紙を見せられた。

久しぶりに顔が観たいという内容だった。

実は先週、父に会いに行ったらしい。

ショックでは無かった。

父は別人のように大人しくなっていると言う。

礼司にはどれくらい父の記憶があるのだろう。

また来週会いに行ってもいいかと言う。

礼司も20歳になったのだし、そういう判断は自分で決めなさい。と答えた。

やはり、父の事を知りたくなるのは当然なんだろう。

***

4月10日

日勤。礼司は夜、父と食べた。

帰ってくると、父の話をする。

ひたすら謝っていたらしい。

あの男がと思うと信じられないが。

自分が間違っていたと悔やんでいるそうだ。

礼司も大学の話などをしたらしい。

進路の話なども。

公務員を目指すことに後悔はないのだろうか。

私に気を使っているのかもしれない。

父親になら腹を割ってそういう話を出来るなら、会うのも悪くない気がする。

***

4月12日

日勤。

今日は寿司を食べに行った。

礼司は最近、父親の話をよくする。

すごく反省している。

一人で寂しそうだ。

今はとても優しい。といつも良い印象なことを強調している。

やはり、父親が恋しかったのだろうか。

昔の記憶は無いようだ。

私の腹を蹴り、顔を殴り、借金を重ねて逃げ出した。

そういう事を、忘れたならそれでもいい。

優しい父親なら、礼司に必要なのだ。

礼司がまだ2歳の頃。

私を殴ろうとする父の前に、立ちはだかって私を守ったことがあるのよと伝えた。それだけは知っていてほしいから。

礼司は覚えてないよと言いながら照れていた。

***

4月14日

準夜。礼司は外で食べるらしい。

仕事に出る前。

礼司は父親と電話していた。

就職について相談したらしい。

公務員になりたいと言っても、

やりたい事をやれよと言われたらしい。

僕のやりたい事が、公務員なのにと、笑っていた。

やっぱり同姓の親の方が気兼ね無く話せるようだ。

***

4月17日

日勤。夕食はオムライス。

礼司に薦められたパーフェクトワールドを観る。

良い映画だった。礼司の薦めるものに外れは無い。

礼司は父親に会いに行っていたようだ。

父親と会うようになって、楽しそうに見える。

寂しい気もするが、やっぱり必要な存在なのかもしれない。

父親の家からは、綺麗な桜が見えるらしい。

その下を散歩したと話す。

お母さん、今年は花見に行こうか。と嬉しそうだ。

どうせなら斎藤さんも誘いなさいと言うと、早速電話をかけていた。

彼女の話なんかも、父親に話しているのだろうか。

斎藤さんは、この家が母子家庭だと知っているのだろうか。

もし知らないのであれば、出来れば知って欲しくない。

礼司を傷つけたくない。

父親の話題が増えるのは、悪くないかもしれない。

***

4月21日

休み。花見に行く。

斎藤さんは酒に強く、礼司は早々に倒れた。

尻にしかれるかもしれない。

桜は綺麗に咲いていた。

久しぶりに花見なんてした。

礼司は桜を写メールに収め、父親に送信した。

父親の家の近くにも桜は咲いているらしい。

***

4月26日

日勤。お好み焼。

夕食後、礼司は真剣な顔で、いつか、父親を家に連れて来たいと言った。

やっぱり、もう20歳だけれど、子供には父親が必要なのだ。

今の父親が、礼司にとって必要な存在になれるかは分からないが、

礼司が必要だというなら、私はそれでいい。

連れて来たいというなら連れてくれば良いし、父親を許せというなら、許す。

斎藤さんと、もし結婚ということになれば、やはり片親というのは、不利になるだろうから、礼司が欲しいと思うものは全て与えてやりたい。

礼司は、父親に電話をしていた。

父親は別人のように優しくなったらしい。
私は礼司の言うことなら、何だって信じられるのだ。
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2012-02-16 : 小説版『適切な距離』 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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プロフィール

tekisetsu

Author:tekisetsu
映画『適切な距離』

2012年9月1日(土)~14日(金)連日21:00~新宿K's cinemaにて公開が決定した大江崇允監督最新映画『適切な距離』公式blog。第7回CO2にてシネアスト大阪市長賞(グランプリ)。主演の内村遥が男優賞受賞。断絶した親子関係。生まれなかった弟と母の幸せな生活。久々のコミュニケーションは、母の嘘の日記だった。

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